breath

あたしは単純なメモや思ったことをメールにして打って、未送信フォルダに放り込む癖がある。このブログ用に作ったけど載せないことにした文章も入ってる。なもんで、未送信が42件とかわけがわからないことになっており、確認して少し消すことにした。「両面テープ・替え芯2B」「18日のバイト朝からに変更」とか要らないやつの筆頭。ざくざく削除。ところがこんな長文が出てきて、めっちゃびびった。確かに書いた覚えはあるある。多分ね、すごく病んでるときのだ。正常なときに読むと笑けるわ。調子に乗って載せてみる。題名、吸血ねこ(笑)。


 帰り道、黒いねこがあたしの後をついてきた。ぶみゃあ、ぶみゃあとぶっちゃいくな声で鳴いてくる。あたしは振り返って、ちょっとなでなでして、ばいばいしようと思ったのだけど、めちゃくちゃしつこくついてくる。食べ物とか持ってないし、どうしようかと思ってなで続けてたら、ねこがあたしの左腕を鼻先でつついてきた。おいおいやめてくれよ、昨日リストカットしたから、包帯巻いてて血がにじんでるんだから。あまりに気にしてる風だから、びびらせてやろうと袖をめくったら、ねこはペロペロと包帯をなめてきた。よくみると、このねこ何だか様子が変だ。わきを持って持ち上げると、体がものすごく冷たい。毛もぱさぱさしてる。そんでもって、心臓が動いてない。あたしは気付いた。このねこは吸血ねこなのだと。
 あたしは吸血ねこを連れて帰って、包帯をとって差し出してみた。すると吸血ねこは、ミルクを飲むのと同じようにあたしの血をなめてきた。舌がざらざらしてて、正直痛かったけど、あんまり可愛いもんだから満足するまでなめさせてあげた。それでも物欲しそうにあたしを見るから、カッターを取り出して、ぶすぶす腕を切っていっぱい血をあげた。
 つぎの日、吸血ねこは布団の上において、彼氏さんとデートに行った。彼氏さんはあたしの服の袖をめくって言った。
「おい、また腕を切ったのか?駄目じゃないか。お前がメンヘラで痛い子なのは知ってるけど、そろそろそんな幼稚なことはやめなさい。」
「違うよ、これは仕方ないの。」
「何が仕方ないんだ。」
「これはね、別にうつで死にたくなったとか、理由のわからない不安に潰されそうになったとか、そんなわけじゃないの。」
「それならどうして?」
「あたし、吸血ねこを拾ったの。吸血ねこは血を飲まないといけないから、それで。」
「吸血ねこ?」
「なんなら見に来て。見た目は普通のねこなんだよ。」
 彼氏さんと家に帰ってくると、吸血ねこは布団の上でうずくまっていた。なんだか元気がない。じっと目をつむって鳴きもしない。あたしは慌てた。
「血が足りないのかな?」
「待て待て、カッターをしまえ、よく考えるんだ。吸血鬼は元人間だから、人間の血を吸うだろう。吸血ねこは元ねこなんだから、ねこの血を本当は吸うんじゃないか?」
「あ、そうか。」
「だからお前の血は少しは効き目があるかもしれないけれど、根本的な解決にはならないと思うんだ。吸血ねこにはねこの血だ。」
「じゃあ、あたしはどうすればいいの?普通のねこをふんづかまえてころせばいいの?」
「そうしてくれ。おれ、手首から血を流して吸血ねこにあげてるような女の子と、あんまり歩きたくないんだ。」
「でも、普通のねこをころしてまわるような女の子は大丈夫なの?」
「よく考えるとそれも嫌だな。」
「じゃああたしはどうすればいいの?」
「聞くばかりじゃなくて、自分でもよく考えなさい。」
 だからあたしはとりあえず、普通のねこを探すことにした。家の近くの空き地に茶色いこねこがいた。あたしはこねこを抱き抱え、首もとをわしゃわしゃした。こねこはぐるぐると喉を鳴らし、うっとりしていた。こねこはとてもあたたかくて、脈が早かった。あたしはこねこをよく見て考えた。
「あたし、このこねこを飼うことにする。」
「それがいい。おれも、手首を切ったりねこをころしたりする女の子より、普通のねこを飼ってる女の子がすきだ。」
「じゃあ、決まった!」
 あたしはこねこに名前をつけて、ミルクをお皿にあけた。吸血ねこはミルクを飲むこねこを見て、短くふうっと唸って、灰になってしまった。